行政不服審査の流れ
①審査請求書の提出先
審査請求書の提出先は、個別法に特別の定めがある場合を除き、処分庁の最上級行政庁(例:大臣、都道府県知事、市町村長等)が審査請求先となります。
ただし、次の場合には、それぞれに記載する行政庁が審査請求先となります。
・処分庁に上級行政庁がない場合(処分庁が主任の大臣や外局として置かれる庁の長等である場合を含む。)
→処分庁
・処分庁の上級行政庁が主任の大臣や外局として置かれる庁の長等である場合
→当該大臣や庁の長等
万が一、審査請求書の提出先がわからない場合は、元の行政処分をした処分庁に問い合わせれば回答していただけます。
②審査請求書の記載内容
[1] 処分についての審査請求書(第19条第2項等)
必要的記載事項
- 審査請求人の氏名(又は名称)及び住所(又は居所)
- 審査請求に係る処分の内容
- 審査請求に係る処分(再調査の請求についての決定を経た後に審査請求をする場合には、その決定)があったことを知った年月日
→実際に処分を知った日を記載しますが、通常は送達日を記載することが多いです。 - 審査請求の趣旨及び理由
→審査請求の趣旨とは、「処分庁のした●月●日付け●●●●処分を取り消す」と記載します。
そして、なぜ当該行政処分が違法なのかについて、その理由を記載します。
違法事由の記載方法は後記で詳述します。 - 処分庁の教示の有無及び教示の内容
→だいたいの行政処分には最終頁に「この処分に対しては不服申し立てをすることができます」との記載がありますが、これが教示です。
審査請求書には、当該教示の内容をそのまま記載すれば問題ありません。 - 審査請求の年月日
- 代表者(管理人)、総代又は代理人がいる場合:代表者(管理人)、総代又は代理人の氏名及び住所(又は居所)
- 審査請求期間の経過後に審査請求をする場合等:審査請求期間の経過後に審査請求をすることについての正当な理由等
→通常の審査請求期間内であれば記載は不要です。 - 執行停止の趣旨及び理由
→執行停止の申立てを行いたい場合(処分の執行を一時的に止めてほしい場合)は、執行停止を求める旨及びその理由を記載し、疎明資料(証拠資料を添付します。)
[2] 不作為についての審査請求書(第19条第3項等)
必要的記載事項
- 審査請求人の氏名(又は名称)及び住所(又は居所)
- 不作為に係る処分についての申請の内容及び年月日
- 審査請求の年月日
(一定の事由に該当する場合の記載事項)
- 代表者(管理人)、総代又は代理人がいる場合:代表者(管理人)、総代又は代理人の氏名及び住所(又は居所)
[3] 再調査の請求書(第61条において準用する第19条第2項等)
必要的記載事項
- 再調査の請求人の氏名(又は名称)及び住所(又は居所)
- 再調査の請求に係る処分の内容
- 再調査の請求に係る処分があったことを知った年月日
- 再調査の請求の趣旨及び理由
- 処分庁の教示の有無及び教示の内容
- 再調査の請求の年月日
- 代表者(管理人)、総代又は代理人がいる場合:代表者(管理人)、総代又は代理人の氏名及び住所(又は居所)
- 再調査の請求期間の経過後に再調査の請求をする場合:再調査の請求期間の経過後に再調査の請求をすることについての正当な理由
[4] 再審査請求書(第66条において準用する第19条第2項等)
必要的記載事項
- 再審査請求人の氏名(又は名称)及び住所(又は居所)
- 再審査請求に係る処分又は裁決の内容
- 審査請求についての裁決があったことを知った年月日
- 再審査請求の趣旨及び理由
- 裁決庁(審査請求についての裁決をした行政庁)の教示の有無及び教示の内容
- 再審査請求の年月日
- 代表者(管理人)、総代又は代理人がいる場合:代表者(管理人)、総代又は代理人の氏名及び住所(又は居所)
- 再審査請求期間の経過後に再審査請求をする場合:再審査期間の経過後に再審査請求をすることについての正当な理由
③違法事由の記載方法
1.手続的違法事由
手続的違法事由とは、行政手続法等に定める手続を適切に踏まなかったなど、当該処分の実体に入らないで判断できる違法事由を記載します。
形式的違法事由の代表例としては、
・聴聞や弁明の機会の付与の不実施(正当な理由がない場合)
・理由付記違反
などがあげられます。
とくに理由付記違反については、不十分又は欠如していた場合は、当該不利益処分自体が取り消されるべきものとなると考えられています(最判昭和60年1月22日 民集39巻1号1頁 判時1145号28頁、最判昭和38年5月3日、最判昭和37年12月26日民集16巻12号2557頁等)。
このように理由付記違反それ自体が独立の取消事由になるというわけです。
理由付記違反がなぜそれだけで独立の取消事由になるのかというと、理由付記制度には、
①行政決定を行う行政庁の判断の慎重さと合理性を担保し,その恣意を抑制する(行政手続の適正化の機能)。
②行政庁の判断の根拠を開示させる(決定過程開示の機能)。
③申請者の不服申立に便宜を与える。
という機能があると考えられているからです。
このような理由からすれば、法令上要請されている理由付記の程度は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して拒否処分がなされたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければなりません。単に根拠規定を示すだけでは、理由付記として不十分であると考えられています。
2.実体的違法事由
実体的違法事由とは、処分の内容が法律に反している等当該行政処分の中身から判断します。
たとえば、当該行政処分の根拠法令が、「都道府県知事は、●●のおそれがあると認められる場合は、改善命令をすることができる」と記載されているとします。
しかし、被処分者は具体的な「●●のおそれ」がないのにも関わらず、改善命令処分を受けたとすると、これは実体的違法事由となります。
「●●のおそれが具体的にないのにもかかわらず、単なる可能性だけで判断した処分庁は違法である」
このような形で違法事由を主張していくことになります。
④審理員の指名
審査請求書が提出されると、審理員と呼ばれる当該審査請求を審理する職員が指定されます。
この審理員は自治体によって様々ですが、当該自治体の職員が個別に指名されることもあれば、弁護士等の有識者を審理員として指名するところもあります。
通常、審理員は審査請求に関する知識を豊富に有している方が多いので、審査のプロが判断してくれることになります。
⑤審理の開始
審査請求書の提出が終わり、審理員が指名されると、審理がはじまります。
審理にあたっては、処分庁弁明を聴く必要がありますので、処分庁から弁明書が提出されます。
そして、弁明書に対し、審査請求人に反論の機会を与え、反論書を提出させます。
これをまとめると、
つまり、審査請求書→弁明書→反論書というような順番で主張・反論を繰り返していきます(※)。
※自治体によっては、再弁明書や再反論書という形で複数回主張の機会を与えるところもありますが、簡易迅速という法制度の趣旨からしても、極力少ない回数で審理を終結するべきであるという考えのもと、比較的主張の期間は裁判に比べて少なくなる傾向にあります。
⑥審理員意見書の提出
審理が終了すると、審理員が審理員意見書を審査庁に提出します。
この審理員意見書をもとに審査庁は裁決を下すことになります。
審理員意見書とは、文字通り審理員の意見であって、審査庁を拘束するものではありませんが、審理員が実際に審理して得た心証等が記載されている以上、審理意見書に反する裁決が下されることは多くありません。
⑦行政不服審査会
審査庁が審理員意見書の提出を受けたときは、原則として、行政不服審査会という第三者機関に諮問することになります。
行政不服審査会は、弁護士等の有識者から構成される組織です。
行政不服審査会は審査庁の裁決書(案)を見て、意見を述べますが、これを答申といいます。
答申には法的な拘束力はないものの、法律のプロたちが述べている意見であるので、これを無視した裁決が下されることは多くはありません。
⑧裁決
審査庁から裁決が下されます。
審査請求人には裁決書の謄本が郵送されてきます。
さいごに
以上が審査請求の主な流れです。
審査請求は個人で行うことももちろんできますが、上記の通り違法事由をどう構成するかなど法律的な論点を豊富に含んでおります。
少しでも審査請求を有利に進めるためにも、一度弁護士へのご相談をおすすめします。
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